定年退職でまとまった退職金が入ってくるけど税金はどうなるんだろう
リタイヤしたあとの生活のための退職金なのに税金を取られるのは嫌だな
退職金と税金に関して様々な不安を感じていることかと思います。
退職金に税金がかかるのか、実際にいくらから税金が発生するのかご紹介します。
退職金に税金はかかるのか
結論から言うと、多くの方の退職金には税金はかかりません。
税金の計算方法については後で説明しますが、まずは根拠となる数字から。
経済産業省が発表している「平成28年経済センサス‐活動調査(平成30年6月28日)」によると日本の従業者数は5687万人(非正規含む)となっています。
そのうち従業員が300人以上いる会社に勤めている人は、830万人。
つまり85%以上の人が従業員数299人以下の会社に勤めていることになります。
-経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査(平成30年6月28日)」より抜粋
中には従業員数が300人未満の上場企業や大企業もあるでしょうが、それほど数は多くないと思うので今回は無視します。
平成28年度のデータですが、3年たってもそれほど数字に変動はないと思います。
次に東京都産業労働局が発表している従業員数10~299人の会社を対象とした「中小企業の賃金・退職金事情」によると
定年まで勤めた場合のモデル退職金(会社都合退職)は
- 高校卒:1,126万円
- 高専・短大卒:1,106万円
- 大学卒:1,203万円
となっていました。
-東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」より抜粋
東京都のデータだからだと思うのですが、地方の中小企業だと定年まで勤めても1,000万円の退職金はなかなか出ないと思います。
しかし今回は、この数字を使ってなぜ税金がかからないのか解説していきたいと思います。
退職金の税金の計算方法
退職金の税金 計算手順
退職金も毎月もらっている給料と同じで所得税の対象ですので、税金はかかります。
ただ計算した結果、税金が0円ですんでいるケースが多いので、退職金には税金がかからないと思っている人がたくさんいるわけです。
上場企業に勤めていたり、会社を経営したりして何千万円も退職金をもらった人には税金がかかっています。
それでも退職金の税金は、給料などよりも税金が少なくなるように制度設計されています。
では退職金の税金が、どう計算されているかお伝えすると
- いくら退職金がもらえるか把握する
- その会社に何年勤めたか調べる
- 退職所得を計算する
- 退職所得が0円より大きいと税金がかかる
計算式はこうなります。
退職所得の金額=(退職金-退職所得控除額)÷2
退職金から退職所得控除という控除を引いて、かつ、その半分が税金の対象になるという計算です。
①については、説明する必要はないでしょう。
会社によっては退職前でもおおよその金額を教えてもらえるそうですので、シミュレーションをしたい方は聞いてみてください。
ではなぜ②の勤続年数が必要になってくるかですが、退職金から差し引く退職所得控除額を計算するためです。
退職所得控除とは
専門的な話は置いておいて、もらった退職金に対して勤続年数に応じた経費のようなもの(退職所得控除)が認められていると思ってください。
こちらが退職所得控除の計算式です。
勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
20年以下の場合 | 40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超の場合 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
退職所得控除額:40万円×10=400万円
つまり、退職金が400万円以内なら税金はかからない
退職所得控除額:800万円+70万円×(40-20)=2,200万円
つまり、退職金が2,200万円以内なら税金はかからない
ざっくり勤続年数別に退職所得控除の金額をまとめると
- 勤続年数1年:80万円
- 勤続年数5年:200万円
- 勤続年数10年:400万円
- 勤続年数20年:800万円
- 勤続年数30年:1,500万円
- 勤続年数40年:2,200万円
となります。
実際に計算してみると控除額がそれなりにあるので、かなりの金額まで税金がかからないということがわかってもらえたかと思います。
ちなみに11ヶ月以下の端数は切り上げて、1年として計算します。
モデル退職金で計算してみると
最初に多くの方がもらう退職金には、税金がかからないとお伝えしたのでモデル退職金を使って計算してみましょう。
定年は60歳として計算してみました。
退職金:1,126万円
勤続年数:42年
退職所得控除額:800万円+70万円×(42-20)=2,340万円
退職所得:1,126万円<2,340万円 なので0円
よって税金はかからない。
退職金:1,106万円
勤続年数:40年
退職所得控除額:800万円+70万円×(40-20)=2,200万円
退職所得:1,106万円<2,200万円 なので0円
よって税金はかからない。
退職金:1,203万円
勤続年数:38年
退職所得控除額:800万円+70万円×(38-20)=2,060万円
退職所得:1,203万円<2,060万円 なので0円
よって税金はかからない。
終身雇用が崩壊したと言われる中、なかなか新卒で入って定年まで勤めることは少ないとは思います。
しかし、新卒から定年まで勤めると2,000万円ちょっとまでの退職金には税金はかからないという結果になりました。
それでは退職金をもらったら確定申告は必要かどうかお伝えしたいと思います。
退職金をもらったら確定申告は必要?
会社に書類を提出したか確認
この書類を書いた記憶はありますか?
この書類は、退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)と言います。
この書類を書いた方は、確定申告をする必要ありません。
今まで説明してきた計算方法は、この書類を会社に提出することで利用できるというルールになっています。
退職所得(退職金>退職所得控除額の状態)が発生していても、会社が適切に計算をして必要な所得税を天引きして国に払ってくれます。
会社に書類を提出していない場合
あまりないケースだとは思いますが、退職所得の受給に関する申告書を提出していないときは、退職金の20.42%の所得税が天引きされているはずです。
退職所得の受給に関する申告書を提出していないとき
退職金:1,203万円
源泉所得税:1,203万円×20.42%=約245万円
定年まで勤めていると、本来はかからないはずの税金が245万円もかかっていますね。
このケースの場合は、必ず確定申告をしましょう。
先に天引きされた税金の還付を受けることができます。
還付のための申告は5年までさかのぼって行うことができますが、過ぎてしまうと返してもらえなくなるので早めに手続きをしておきましょう。
転職をしているときの勤続年数はどうなる?
何度か転職をしているときの勤続年数はどうカウントするのか、気になる方もいらっしゃるかと思います。
A社:8年
B社:13年
C社19年→退職金支給
それぞれが資本関係のない別の会社の場合
退職所得控除額:40万円×19(C社の勤続年数)=760万円
つまり、勤続年数はそれぞれの会社でカウントされ、転職を繰り返しているときは最後の会社の勤続年数+退職金で税金がかかるかどうかの判定を行います。
ただし、B社が親会社でC社がその子会社の場合
退職給与規定などでB社とC社の勤続年数を通算して退職金を計算すると決まっているときは、退職所得控除の計算でも勤続年数を足すことになります。
また会社役員の勤続年数には別のルールが存在するので気になる方はこちらをご覧ください。
まとめ
多くの方の退職金には税金がかからないことをお伝えしました。
その理由は退職金が税金の対象になっていないわけではなく、勤続年数に応じて多額の控除があるからでしたね。
当然ですが、何千万も退職金をもらう人には税金がかかりますが、それでも他の収入よりも優遇はされています。
もしあなたの退職金から所得税が天引きされていたら、その計算があっているか確認してみてもいいかもしれません。
間違っていて払いすぎているようでしたら確定申告をすると、払いすぎた分の所得税が返ってきますよ。